水素市場の普及加速と世界市場成長予測

水素市場の現状と将来展望：タイプ別、生産プロセス別、最終用途産業別の分析（2025～2032年）

はじめに

水素は、クリーンなエネルギー源として注目を集めており、世界各国で脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速しています。特に、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」や、化石燃料由来ながらCO₂回収技術を活用した「ブルー水素」の開発が進められています。Fortune Business Insightsのレポート（水素市場）によると、世界の水素市場規模は2024年に2,175億米ドルに達し、2025年から2032年にかけて**年平均6.36%の成長率（CAGR）**で拡大し、2032年には3,535億2,000万米ドルに達すると予測されています。

本記事では、水素市場のタイプ別（青、緑、灰色）、生産プロセス別（改質、産業副産物など）、**最終用途産業別（鉄鋼、製油所、アンモニア、メタノールなど）**の動向を分析し、今後の展望について詳しく解説します。

水素市場のタイプ別分析：青、緑、灰色の違いと市場シェア

水素は、その製造方法によってグレー水素、ブルー水素、グリーン水素の3つに大別されます。それぞれの特徴と市場動向について見ていきましょう。

1.1 グレー水素（Gray Hydrogen）

グレー水素は、天然ガスや石炭などの化石燃料を**水蒸気改質（SMR）や部分酸化（POX）によって水素とCO₂に分解して生産される水素です。現在、世界の水素生産の約95%**を占めており、最も一般的な水素です。

特徴：

生産コストが低い（1kgあたり1～2米ドル）

CO₂排出量が多い（1kgの水素生産で約10kgのCO₂が発生）

主に製油所や化学工業で使用

市場動向：

環境規制の強化により、徐々にブルー水素やグリーン水素への移行が進んでいる

中国やインドなどの新興国では、依然としてグレー水素が主流

1.2 ブルー水素（Blue Hydrogen）

ブルー水素は、グレー水素と同様に化石燃料から生産されますが、CO₂回収・貯留（CCS）技術を用いて排出されるCO₂を回収・貯留することで、カーボンニュートラルに近づけた水素です。

特徴：

CO₂排出量を大幅に削減（80～90%）

生産コストはグレー水素より高い（1kgあたり2～3米ドル）

欧州や日本など、脱炭素化を進める先進国で需要が拡大

市場動向：

2030年までにブルー水素の生産能力が大幅に増加すると予測

ノルウェーやカナダなど、CCS技術に強みを持つ国がリード

1.3 グリーン水素（Green Hydrogen）

グリーン水素は、再生可能エネルギー（太陽光、風力など）を用いた水の電気分解によって生産される水素で、製造過程でCO₂を一切排出しません。将来の主流となることが期待されています。

特徴：

完全なカーボンフリー

生産コストが高い（1kgあたり3～6米ドル）

再生可能エネルギーの普及とともにコスト低下が見込まれる

市場動向：

2030年以降、グリーン水素の生産コストがブルー水素と同等になると予測

オーストラリア、サウジアラビア、チリなど、再生可能エネルギー資源が豊富な国が有利

日本やEUは、グリーン水素の輸入に向けたインフラ整備を進めている

生産プロセス別の水素市場動向

水素の生産方法は、改質（炭素回収なし）、産業副産物、電気分解などに分類されます。それぞれのプロセスと市場シェアについて解説します。

2.1 水蒸気改質（SMR：Steam Methane Reforming）

天然ガスを高温・高圧下で水蒸気と反応させ、水素とCO₂を生成する方法です。最も一般的な水素生産プロセスで、グレー水素の大部分を占めています。

特徴：

高効率（エネルギー変換効率70～80%）

大規模生産に適している

CO₂排出量が多い

市場動向：

2024年現在、水素生産の約**75%**を占める

将来的にはCCS技術と組み合わせたブルー水素への移行が進む

2.2 産業副産物（Industrial By-product Hydrogen）

製鉄所や化学工場などで発生する副産物としての水素を回収・利用する方法です。特にコークス炉ガス（COG）や塩素アルカリ工程からの水素が利用されています。

特徴：

既存の産業プロセスを活用できるため、追加コストが低い

供給量が限定的

市場動向：

日本や韓国など、製鉄業が盛んな国で需要が高い

将来的にはグリーン水素やブルー水素に置き換わる可能性

2.3 電気分解（Electrolysis）

再生可能エネルギーを用いて水を電気分解し、水素と酸素を生成する方法です。グリーン水素の主な生産方法として注目されています。

特徴：

再生可能エネルギーと組み合わせることでカーボンフリー

現時点ではコストが高い（1kgあたり4～6米ドル）

小規模分散型の生産に適している

市場動向：

2030年以降、グリーン水素のコスト低下が進むと予測

オーストラリアや中東諸国で大規模プロジェクトが進行中

最終用途産業別の水素市場分析

水素は、鉄鋼、製油所、アンモニア、メタノール、運輸など、さまざまな産業で利用されています。それぞれの分野における需要動向を見ていきましょう。

3.1 鉄鋼業（Steel Industry）

鉄鋼業は、CO₂排出量の多い産業の一つであり、水素を用いた**低炭素製鉄（水素還元製鉄）**が注目されています。

動向：

EUや日本で水素還元製鉄の実証プロジェクトが進行中

2030年までに水素製鉄の商業化が進むと予測

中国やインドなどの新興国でも導入が進む可能性

3.2 製油所（Refineries）

製油所では、原油の精製過程で発生する硫黄分を除去するために水素が使用されています。

動向：

現在、水素需要の約**40%**を占める

将来的にはバイオ燃料や合成燃料の生産にも水素が活用される見込み

3.3 アンモニア・メタノール産業

アンモニアは肥料や化学原料として、メタノールはプラスチックや燃料として利用されています。これらの生産には大量の水素が必要です。

動向：

アンモニア生産は水素需要の約**25%**を占める

グリーンアンモニアの開発が進み、燃料としての利用も期待される

3.4 運輸分野（Transportation）

燃料電池自動車（FCV）やトラック、船舶、航空機などでの水素利用が進んでいます。

動向：

日本や韓国でFCVの普及が進む

欧州では水素トラックや水素バスの導入が加速

航空機や船舶向けの水素燃料開発が進行中

地域別の水素市場動向

水素市場は、地域によって需要や供給の状況が大きく異なります。主要地域の動向を分析します。

4.1 アジア太平洋地域（APAC）

中国：世界最大の水素生産国（年間約3,300万トン）

日本：グリーン水素の輸入に向けた戦略を推進

韓国：水素経済ロードマップに基づき、FCVや水素発電を拡大

4.2 北米

米国：DOE（エネルギー省）が水素ハブ構想を推進

カナダ：ブルー水素の生産拡大に注力

4.3 欧州

EU：水素戦略に基づき、2030年までにグリーン水素の生産能力を1,000万トンに拡大

ドイツ：水素輸入インフラの整備を進める

4.4 中東・アフリカ

サウジアラビア：NEOMプロジェクトでグリーン水素の大規模生産を計画

オーストラリア：再生可能エネルギーを活用したグリーン水素の輸出を目指す

水素市場の課題と将来展望

5.1 課題

コスト：グリーン水素の生産コストが高い

インフラ：水素輸送・貯蔵のためのインフラ整備が遅れている

規制：国際的な水素認証基準の統一が必要

5.2 将来展望

2030年：グリーン水素のコストがブルー水素と同等になる

2050年：水素が世界のエネルギー需要の10～20%を占める

技術革新：電解槽の効率向上やCCS技術の進展が期待される

まとめ

水素市場は、脱炭素社会の実現に向けて急速に成長しています。特に、グリーン水素の普及が進むことで、鉄鋼、製油所、運輸などの産業におけるCO₂排出量の大幅削減が期待されています。一方で、コストやインフラ整備などの課題も残されており、政府や企業の協力が不可欠です。

Fortune Business Insightsのレポート（水素市場）によると、2032年までに水素市場は3,535億2,000万米ドルに達すると予測されており、今後も注目すべき分野と言えるでしょう。

参考資料

Fortune Business Insights「水素市場」

国際エネルギー機関（IEA）「Global Hydrogen Review 2023」

日本経済産業省「水素基本戦略」

この記事が、水素市場の現状と将来展望についての理解に役立てば幸いです。今後の動向にも注目していきましょう。

https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E6%B0%B4%E7%B4%A0%E5%B8%82%E5%A0%B4-114275