再生可能エネルギー証書市場の供給構造と将来展望

再生可能エネルギー証書市場:成長の原動力と将来展望

近年、気候変動対策とカーボンニュートラル実現に向けた世界的な動きが加速する中、再生可能エネルギー証書市場 は、その重要な役割を果たしています。企業や政府が再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱など)の利用を促進し、温室効果ガスの排出量を削減するために、この市場の存在意義はかつてないほど高まっています。本稿では、再生可能エネルギー証書市場の規模、シェア、業界分析、そして今後の予測について、詳細に解説していきます。特に、タイプ別(コンプライアンスおよび任意)、形式別(バンドルされていない証明書およびバンドルされた証明書)、エンドユーザー別(企業、公益事業、家庭/小売、その他)、地域別の分析に焦点を当て、2025~2032年の市場動向をお伝えします。

再生可能エネルギー証書(REC)とは何か?

再生可能エネルギー証書(REC:Renewable Energy Certificate)は、再生可能エネルギー発電施設が生産した1メガワット時(MWh)の電力に付与される「証明書」のことです。この証書には二つの側面があります。

電力の物理的供給

再生可能エネルギーで生成された電力そのもの。

環境的価値(属性)

その電力が化石燃料による発電と比べて、どれだけの温室効果ガス排出量を削減したかという「環境的価値」です。

RECの大きな特徴は、電力そのものと、その環境的価値を分離して取引できるという点です。つまり、企業は実際に再生可能エネルギーから供給される電力を購入しなくても、RECを購入するだけで、自社の電力使用量が「再生可能エネルギー由来」と主張することが可能になります。これが、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)取り組みやカーボンニュートラル目標達成に向けた重要なツールとなっています。

RECの仕組み

再生可能エネルギー発電所が電力を生成すると、同時にRECが発行されます。

発電所は電力とRECを別々に販売できます。

RECを購入した企業は、その購入量に応じて「再生可能エネルギーを使用している」と宣伝でき、持続可能性報告書に記載することが可能です。

RECは一度使用されると無効になるため、二重計上(ダブルカウント)が防止されます。国際的な基準(例えば、ICDP:International REC Standard)によって、適切な管理がなされています。

この仕組みにより、再生可能エネルギー発電所の投資を促進し、新しい施設の建設が進むことになります。結果として、全体的な再生可能エネルギーの導入が加速するのです。

市場規模と成長予測:爆発的な拡大が期待される市場

フォーチュン・ビジネスインサイト(Fortune Business Insights)の最新リサーチによると、世界の再生可能エネルギー証書の市場規模は、2024年に275億8000万米ドルと評価されています。この数字は、市場がすでにかなりの規模に達していることを示していますが、今後の成長はさらに驚異的です。

予測期間(2025年~2032年)の詳細

市場規模(米ドル)

年平均成長率(CAGR)

2024年

275億8000万

-

2025年

297億8000万

8.0%

2032年

582億3000万

10.05%

市場は2025年の297億8000万米ドルから始まり、2032年には582億3000万米ドルにまで成長すると予測されており、予測期間中(2025~2032年)の年平均成長率(CAGR)は10.05%**を記録します。これは非常に高い成長率であり、再生可能エネルギー分野全体の中でも特に注目すべき市場の一つです。

成長の背景

この急成長を支える要因は多岐にわたります。

(1) 世界的なカーボンニュートラル目標の設定と法規制の強化

パリ協定: 2015年に採択されたパリ協定は、全球の平均気温上昇を産業革命前比2度未満(できれば1.5度未満)に抑えることを目指しています。各国の政府は、この目標を達成するために、再生可能エネルギー導入を義務付ける法律・規制を次々と導入しています。

各国の具体的な政策:

欧州連合(EU): 「欧州グリーンディール」のもと、2050年までのカーボンニュートラルを目指し、再生可能エネルギー使用義務比率(RES)を引き上げるとともに、REC市場の規制を厳格化。EU内の多くの国でコンプライアンス用のRECの需要が急増しています。

アメリカ: インフレ削減法(IRA:Inflation Reduction Act、2022年公布)は、再生可能エネルギー発電所への税制優遇措置を大幅に拡充。これにより、RECの発行量が急増。さらに、連邦政府や州政府の再生可能エネルギー目標が市場を後押ししています。

日本: 「グリーン成長戦略」や「カーボンニュートラル宣言」に基づき、2030年に再生可能エネルギーの割合を36~38%、2050年にはカーボンニュートラルを目指しています。政府は、再生可能エネルギー市場の拡大に向けた規制緩和やFIT(固定価格買取制度)の見直しを進めており、REC市場の基盤強化に努めています。

中国: 世界最大の再生可能エネルギー生産国。国内の汚染対策と気候目標のために、巨額の投資を継続。REC市場は主に国内向けですが、国際市場への参入も進めています。

インド: 2030年までに非化石燃料の割合を50%に、2070年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言。太陽光発電の拡大に伴い、RECの需要が急増しています。

(2) 企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への対応とサステナビリティ目標の浸透

企業にとって、環境への配慮はもはや「オプション」ではなく、「必須条件」となっています。投資家、消費者、従業員からのESGへの関心は高まる一方です。

投資家の圧力: 大手投資ファンド(BlackRock、Vanguardなど)は、ポートフォリオ企業のESGスコアを重視するようになり、企業は自社の炭素排出量を削減し、再生可能エネルギーの利用を証明する必要があります。RECの購入は、容易に目標達成をアピールできる手段です。

サプライチェーンの要請: 大手小売業や製造業は、自社のサプライヤーに対しても再生可能エネルギー使用を要求するケースが増えています。サプライヤーがRECを購入すれば、サプライチェーン全体のコーポレートなカーボンフットプリントが改善されるためです。

企業の自主的なコミットメント: テスラ、グーグル、マイクロソフト、アップル、フェイスブック(メタ)など、多くのグローバル企業が「100%再生可能エネルギー使用」を宣言しています。多くの場合、これらの目標はRECの購入によって達成されています。例えば、グーグルは長年にわたり、運用するデータセンターの電力需要を全て再生可能エネルギーでまかなうために、大量のRECを購入し続けています。

(3) 技術の進歩とコスト削減

再生可能エネルギー発電の技術革新が進み、太陽光パネルや風力タービンの価格が急激に下がっています。これにより、発電所自体の建設コストが低下し、収益性の向上が図られます。収益性の向上は、より多くの発電所が建設されることを意味し、それに伴い発行されるRECの数も増加します。

太陽光発電: 結晶シリコン太陽電池の効率向上と製造コストの低下が顕著。

風力発電: 大型化・高効率化されたタービンの開発により、陸上・海上風力両方の採算性が改善。

エネルギー貯蔵技術: リチウムイオン電池のコスト低下により、太陽光・風力のような変動性の高い発電源の安定供給が可能になり、需要が増加。

(4) 消費者の環境意識の高まり

エコ意識の高い消費者が増え、環境に配慮した企業を支持する傾向が強まっています。企業は、ブランドイメージ向上のためにRECを購入し、パッケージや広告で「再生可能エネルギー使用」と明記することで、消費者の支持を獲得しようとしています。

市場のセグメント分析

再生可能エネルギー証書市場は、いくつかの視点から細分化することができます。以下、各セグメントごとの詳細な分析を行います。

(1) タイプ別:コンプライアンス vs 任意

この分類は、RECを購入する目的によって分けられます。

ア. コンプライアンス型REC

定義: 政府や規制当局によって義務付けられた再生可能エネルギー使用比率(RPS: Renewable Portfolio Standard)を満たすために購入されるREC。

市場規模とシェア: 市場全体の最大のシェアを占めています(2024年時点で約60~65%)。法規制が直接的に市場を牽引しているためです。

動向:

各国政府が再生可能エネルギー目標値を引き上げ続ける限り、需要は確実に増加します。例えば、EUでは国によって目標は異なりますが、平均で2020年代末には40%以上が義務付けられる見込みです。

規制の厳格化に伴い、「追加性(Additionality)」 の概念が重要になっています。これは、「購入されたRECが、新規の再生可能エネルギー発電所の建設を促すものであること」を保証するものです。単に既存の発電所のRECを購入するだけでは、真の環境効果は薄れるためです。

コンプライアンス購入者は主に公益電力会社や、規制の対象となる大規模な工業企業です。

イ. 任意型REC(ボラタリーREC)

定義: 法的義務ではなく、企業の自主的なサステナビリティ目標(ESG、コーポレート社会責任:CSR)やブランドイメージ向上のために購入されるREC。

市場規模とシェア: 現在はコンプライアンス型より小さいものの、成長率が最も高いセグメントです。予測期間中、CAGRはコンプライアンス型を上回ると見られています(推定CAGR 12%以上)。

動向:

中小企業や、規制の対象外の企業(小売業、サービス業など)でも、競争優位性を得るために購入が進んでいます。

特に北米とヨーロッパで盛ん。米国では「Green-e」認証、ヨーロッパでは「EKOenergy」認証などの信頼できるボラタリーRECの認証制度が確立しており、購入企業の信頼性を高めています。

テクノロジー企業、ファッション業界、小売業での採用が急増。例えば、H&MやユニクロもボラタリーRECを購入して環境配慮をアピールしています。

「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」 の推奨もあり、企業は自主的な開示が求められ、ボラタリーRECの需要がさらに拡大すると予想されます。

📊 タイプ別予測(2025-2032年)

コンプライアンス型:着実な成長(CAGR 9.2%)

任意型:急成長(CAGR 12.8%)

2024年時点の比率: コンプライアンス 62% / 任意 38%

2032年予測比率: コンプライアンス 55% / 任意 45%

(任意型のシェアが急速に伸びる)

(2) 形式別:バンドルされていない証明書 vs バンドルされた証明書

RECは、電力と分離して取引されるか、一緒に取引されるかによって分類されます。

ア. バンドルされていない証明書(Unbundled RECs)

定義: 電力供給とRECが別々に販売・購入されるものです。

特徴と用途:

最も一般的な形態です。企業は、従来の電力会社から通常の電力(混合電源)を購入し、別途RECを購入することで、使用電力が「再生可能エネルギー由来」と位置付けます。

柔軟性が高い。電力の供給元とRECの供給元が異なるため、企業はコストパフォーマンスの良い電力契約と、環境目標に合ったRECを選択できます。

大規模な企業や、特定の地域に縛られない企業に好まれます。例えば、東京にある企業が、オーストラリアの風力発電所からRECを購入するといったことが可能です。

市場の主要部分を占める(2024年時点で市場の約85%)。特に任意型RECはほぼ全てがアンバンドルです。

イ. バンドルされた証明書(Bundled RECs)

定義: 電力供給とRECが一括して販売・購入されるものです。つまり、再生可能エネルギー発電所から直接供給される電力に、自動的にRECが付与された状態です。

特徴と用途:

主に公益電力会社や再生可能エネルギー発電所自体が提供します。顧客(主に家庭や小規模事業所)が電力契約を結ぶ際に、自動的に再生可能エネルギー由来の電力を選択するオプションです。

顧客にとって手軽。RECを別途購入する必要がなく、契約するだけで再生可能エネルギー使用が実現します。

「グリーン電力商品」 として販売されます。例えば、日本の主要電力会社でも「再エネ電気」という名称でバンドルされたプランを提供しています。

市場シェアはアンバンドルに比べて小さい(2024年時点で約15%)が、一般家庭や小規模事業所の需要増加に伴い、緩やかに成長しています。特に、消費者の環境意識の高まりや、電力会社のプロモーションの強化により、今後伸びる可能性があります。

📊 形式別予測(2025-2032年)

バンドルされていない証明書:CAGR 9.8%

バンドルされた証明書:CAGR 11.5%

成長率ではバンドル型がやや上回るが、絶対額ではアンバンドルが圧倒的に大きいまま推移します。

(3) エンドユーザー別:誰が購入しているのか?

ア. 企業(企業部門)

市場シェア(2024年):約55%

詳細:

最大の購入層です。上記で説明した通り、ESG目標、コーポレートブランディング、投資家への開示、サプライチェーン要件のために購入します。

特にエネルギー消費量の多い産業(製造業、データセンター、化学工業)が多く購入します。データセンターは24時間稼働するため電力需要が巨大で、グーグルやAmazonウェブサービス(AWS)は世界最大級のREC購入者です。

日本企業でも、トヨタ、ソニー、パナソニック、ソフトバンクなどが積極的に購入しています。2023年に発表された「日本企業の気候関連財務情報開示(TCFD)対応状況」調査では、回答企業の70%以上が何らかの形でRECを利用しているという結果も出ています。

イ. 公益事業(公益電力会社)

市場シェア(2024年):約25%

詳細:

主にコンプライアンス型RECを購入します。政府が定めた再生可能エネルギー使用義務比率(RPS)を満たすためです。

また、自社が提供する「グリーン電力プラン」(バンドル型REC)用として購入することもあります。

欧州や米国の公益電力会社の購入が目立ちます。日本でも、関西電力、東京電力パワーグリッドなど大手電力会社が積極的に購入しています。

ウ. 家庭/小売(家庭・小規模事業者)

市場シェア(2024年):約15%

詳細:

主にバンドルされた証明書を通じて購入します。家庭が電力会社と結ぶ「再エネ電気」契約がこれに該当します。

個人では直接RECを購入するのは難しいですが、電力自由化によって、複数の新電力(PPS)がグリーン電力プランを提供しているため、選択肢が増えています。

環境意識の高い若年層を中心に、契約数が増加傾向にあります。政府の補助金やキャンペーンも後押ししています。例えば、日本では「再エネ電気の普及促進事業」として、家庭向けグリーン電力への切り替えを支援する助成金があります。

小規模事業者(地元の店舗、カフェ、小さな事務所など)も、電力会社のグリーンプランに加入するケースが増えています。

エ. その他のユーザー

市場シェア(2024年):約5%

詳細:

教育機関(大学、学校)、病院、政府機関、NGOなどが含まれます。

これらの組織も、自らの持続可能性目標のためにRECを購入することがあります。特に、大学は研究機関として環境リーダーシップを発揮しようとする傾向が強いです。

また、再エネ発電所そのものが、自らが生成したRECを販売する場合もこのカテゴリに含めることがあります(販売側)。

📊 エンドユーザー別予測(2025-2032年)

企業:CAGR 10.5% (引き続き最大の需要源)

公益事業:CAGR 9.0%

家庭/小売:CAGR 12.5% ⭐️ 最も高い成長率

その他のユーザー:CAGR 8.5%

ポイント: 家庭/小売セグメントの成長が特に顕著です。電力自由化の進展と消費者意識の高まりが相まって、今後この層のシェアが伸び、2032年には18%程度に達すると予測されます。

(4) 地域別予測:どこで市場が伸びるのか?

ア. アジア太平洋(APAC)

市場シェア(2024年):約45%

予測期間中CAGR:11.2%

詳細:

中国が圧倒的な市場規模を誇ります。巨大な再生可能エネルギー発電能力(太陽光、風力)と、政府の強力な政策が市場を牽引します。中国国内では「中国緑証書市場」が活発に運営されています。

日本: 政府の「グリーン成長戦略」や「GX(グリーントランスフォーメーション)」により、市場が着実に成長。特に企業の任意型REC購入が増加中。2023年は前年比15%の成長を記録。

インド: 太陽光発電の急速な拡大。国家太陽光ミッションやカーボンニュートラル目標(2070年)に伴い、REC市場が急成長。CAGRは13%以上とAPAC内で最も高い可能性。

オーストラリア、韓国、タイ、マレーシアなども太陽光・風力発電の導入が進み、市場が拡大中です。

課題: 一部の国ではREC市場の標準化や透明性が不十分で、質の高いRECの確保が課題となっています。

イ. 北米

市場シェア(2024年):約30%

予測期間中CAGR:10.8%

詳細:

アメリカが中心。インフレ削減法(IRA) の影響が非常に大きいです。太陽光、風力、蓄電池への投資が急増し、それに伴いRECの発行量が爆発的に増加しています。

企業の任意型REC購入が非常に活発。米国はボラタリーREC市場の最大手です。Green-e認証のRECが主流。

カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州などが再生可能エネルギー導入に積極的。

カナダも同様に、連邦および州政府の政策により市場が成長中。

ウ. ヨーロッパ

市場シェア(2024年):約20%

予測期間中CAGR:9.5%

詳細:

欧州連合(EU) の「欧州グリーン・ディール」が最大の原動力。2021年に始動した「Fit for 55」パッケージは、気温上昇1.5度目標達成のために、様々な規制を導入。再生可能エネルギー使用義務比率の引き上げが各加盟国に義務付けられています。

市場は成熟しており、コンプライアンス型が主流。ドイツ、スペイン、フランス、イタリアなどが主要市場。

任意型RECも活発で、EKOenergyやGuarantees of Origin (GoO) が利用されています。

課題: 既存の再生可能エネルギー施設が多く、新規建設のペースが鈍化する可能性があるため、成長率はAPACや北米よりやや控えめと予測されます。

エ. その他の地域(中東・アフリカ、ラテンアメリカ)

市場シェア(2024年):約5%

予測期間中CAGR:12.0%

詳細:

現在は規模が小さいものの、成長率は高いと予測されます。

中東: サウジアラビアのアラビア光プロジェクト(NEOM)や、UAEの太陽光発電所建設により、市場が形成されつつあります。石油依存からの脱却が急がれています。

アフリカ: 南アフリカ、モロッコ、エジプトなどで太陽光・風力発電が進展。国際的な資金援助(例えば、気候資金)がREC市場の発展を後押しします。

ラテンアメリカ: ブラジル、チリ、メキシコなどで再生可能エネルギー導入が進む。特にチリは太陽光と風力のポテンシャルが高く、REC市場の成長が期待されます。

市場に影響を与える主な要因と課題

市場を牽引する要因

気候変動に関する国際的な合意の強化(パリ協定、COP会議での合意)

政府の再生可能エネルギー導入促進政策(RPS、FIT、税制優遇、補助金)

企業のESG/CSRへの取り組みの必須化

再生可能エネルギー発電コストの急激な低下

気候関連財務情報開示(TCFD、ISSB)の普及

消費者の環境意識の高まり

市場が直面する課題

追加性(Additionality)の問題

既存の発電所から発行されるRECを購入しても、新たな再生可能エネルギーが増えるわけではありません。真の環境効果を求める声が高まり、「追加性」を保証する基準が求められています。例えば、購入者が新規発電所の建設を資金的に支援する必要があるという考え方です。

価格の変動性

RECの価格は、供給(発電量)と需要(規制の厳格さ、企業の意欲)のバランスによって大きく変動します。規制が緩和されれば価格は下落し、逆に厳格化されれば急騰します。企業は長期的な予算計画が立てにくくなる場合があります。

市場の標準化と透明性の欠如(特に新興国)

各国でRECの発行・管理システムが異なり、品質や信頼性にばらつきがあります。詐欺や二重計上のリスクを排除するために、国際的な基準の普及と監査体制の強化が求められています。

認知度の低さ(特に一般消費者向け)

家庭/小売セグメントの成長を妨げる要因の一つです。多くの消費者がRECやグリーン電力プランについて十分に理解しておらず、選択肢として認識していないことが多いです。教育・普及活動が不足しています。

電力系統の制約

再生可能エネルギーを大量に導入する場合、電力網の強化が必要になります。電力網の容量不足が、発電所の建設やRECの需要増加を抑制する可能性があります。

克服に向けた取り組み

国際基準の策定と認証制度の強化: ICDP, Green-e, EKOenergy など、信頼できる認証機関の利用を促進。

ブロックチェーン技術の導入: RECの発行、取引、使用履歴を透明かつ安全に管理。二重計上を防ぐ効果的手段として注目されています。既にオーストラリアやEUで実証実験が進められています。

政府による市場教育: 家庭向けのグリーン電力普及キャンペーンの展開。

企業内での専門部署の設置: ESG担当部門を設置し、REC戦略を立案。

今後の展望と戦略的提言

2032年までの予測とトレンド

任意型RECの急成長

法規制が一定程度完成した後、企業の自主的な取り組みが市場をリードするようになります。特に中小企業の参加が増加します。

家庭/小売セグメントの拡大

電力自由化がさらに進み、消費者が簡単にグリーン電力を選択できる環境が整います。スマートメーターの普及とともに、個別でのREC購入(小規模REC)も可能になるかもしれません。

デジタル化とトレーディングプラットフォームの台頭

RECの取引は、従来の取引所だけでなく、オンラインのプラットフォームを通じて行われることが多くなります。AIを活用した価格予測や自動購入システムが普及します。

「バーチャルPPAs(Power Purchase Agreement)」の増加

企業が再生可能エネルギー発電所と長期間の電力購入契約(PPA)を結ぶ際、物理的な電力供給ではなく、RECの供給を条件とすることがあります。これがバーチャルPPAです。リスクヘッジとして利用されます。

水素とRECの連携

グリーン水素(再生可能エネルギーで製造された水素)の生産が増加すると、その製造プロセスに使用された電力の証明としてRECが利用される可能性があります。水素市場の成長がREC市場にも波及します。

企業にとっての戦略的提言

✅ 早期でのREC導入を検討する

市場が成長すればするほど、RECの価格は上昇する傾向があります。現在購入しておくことで、将来のコスト上昇リスクを回避できます。

✅ 追加性を重視した購入を行う

単に購入するだけでなく、新規発電所の開発を支援するRECを選ぶことで、真の環境貢献とブランド価値の向上につながります。

✅ 目標設定と開示を明確化する

「2030年までに100%再生可能エネルギー使用」という明確な目標を設定し、TCFDに準拠した開示を行うことで、投資家やステークホルダーからの信頼を得られます。

✅ ボラタリー市場の活用

規制対象外の企業でも、ボラタリーRECを購入することで、競合との差別化を図れます。

✅ サプライチェーン全体への働きかけ

主要なサプライヤーにもRECの購入を促し、サプライチェーン全体のコーポレートなカーボンフットプリントを削減します。

まとめ

再生可能エネルギー証書市場は、気候変動対策の最前線に立つ重要な市場として、爆発的な成長を続けています。2024年の275億ドル規模から、2032年には582億ドルにまで拡大すると予測され、CAGR 10.05%という高い成長率を維持します。

タイプ別では任意型REC、エンドユーザー別では家庭/小売セグメントが特に高い成長率を示し、今後の市場を牽引するでしょう。地域別ではアジア太平洋、特に中国とインドの成長が目立ちますが、北米のインフレ削減法(IRA)の影響も非常に大きいです。

企業にとっては、単なるコンプライアンス対策を超えて、ESG戦略の中核としてRECを活用することが、今後の持続可能な経営のために不可欠です。市場の動向を注視し、戦略的な購入を行うことで、環境貢献とビジネス優位性の両方を達成できるでしょう。

再生可能エネルギー証書は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた、切実なニーズと革新的な技術が交差する市場です。今後数十年間、この市場の成長はさらに加速していくことでしょう。

https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E8%A8%BC%E6%9B%B8%E5%B8%82%E5%A0%B4-114272

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