米国ネブライザ市場の需要動向と市場予測 2032年

米国ネブライザー市場：成長ドライバー、セグメンテーション動向、そしてCOVID後の展望（2023-2030年）

喘息、慢性閉塞性肺疾患（COPD）、嚢胞性線維症といった慢性呼吸器疾患は、米国において長年にわたる公衆衛生上の負担となっており、何百万人もの人々に影響を与え、医療システムに毎年大きな負担をかけています。これらの患者の多くにとって、ネブライザーは単なる医療機器ではなく、生命線です。液剤を微細なエアロゾルに変換し、肺に直接吸入することで、急性増悪の集中的な緩和と長期的な症状管理を実現します。アクセスしやすく効果的な呼吸器ケアへの需要が高まるにつれ、 米国のネブライザー市場は 医療機器業界の重要なセグメントとして台頭しており、技術の進化とケア提供モデルの変化がその軌跡を大きく変えています。最近の分析によると、この市場は2022年に3億7,290万米ドルと評価され、人口動態の変化と変化する患者のニーズに応えるデバイス設計の進歩を反映して、2023年から2030年にかけて4.6%の複合年間成長率（CAGR）で拡大すると予測されています。

市場成長の主な要因

米国のネブライザー市場の着実な拡大は、慢性呼吸器疾患の罹患率の上昇をはじめとする、いくつかの相互に関連する要因に支えられています。米国疾病対策センター（CDC）の報告によると、2021年には2,570万人の米国人（人口の約8%）が喘息を患っており、そのうち約700万人が子供です。幼児や運動能力が限られている高齢患者にとっては、定量噴霧式吸入器（MDI）に必要な呼吸の調整が不要なため、ネブライザーが薬剤投与の唯一の実行可能な選択肢となることがよくあります。同様に、COPDは米国の成人1,600万人が推定で罹患しており、人口の高齢化に伴い症例数が増加すると予測されています。CDCは、2030年までに2,000万人以上の米国人がCOPDとともに生きると予測しており、医療現場と家庭の両方でネブライザーの需要が持続します。

もう一つの大きな推進力は、在宅医療への移行の拡大です。COVID-19パンデミック以前の数年間、在宅ケアは入院に代わる費用対効果の高い選択肢として既に注目を集めていましたが、公衆衛生危機がこの傾向を劇的に加速させました。2020年から2021年の急増時には、重度の呼吸困難を呈するCOVID-19患者で病院は逼迫し、医療提供者は病床を解放するために、重症ではない呼吸器系の患者の在宅ケアを優先するようになりました。この変化はパンデミック後も続いています。米国在宅ケア協会による2023年の調査では、呼吸器ケア提供者の62%が対象患者に家庭用ネブライザーを推奨しており、2019年の48%から増加しています。保険適用もこの傾向を後押ししています。メディケア パートBは、呼吸器疾患と診断された患者のネブライザーなどの耐久医療機器（DME）をカバーしているため、自己負担額が削減され、家庭用機器がより利用しやすくなっています。

技術革新も市場の成長を後押ししており、特に効率性を高めた携帯型ネブライザーの開発が顕著です。呼吸器ケアの主力製品として長らく使われてきた従来のジェット式ネブライザーは、手頃な価格ですがかさばり、薬剤の送達に時間がかかりました。しかし、微細な孔からエアロゾルを発生させる新型メッシュ式ネブライザーは、治療時間が短く（ジェット式ネブライザーの15～20分に対し、5～10分が一般的）、粒子が小さく肺の奥深くまで到達するため、薬剤の効力が向上します。また、これらのデバイスは携帯性も高く、ポケットサイズで充電式バッテリーで動作するものが多いため、旅行中の患者や外出先で症状を管理する必要がある患者に最適です。業界レポートによると、消費者と医療提供者がこれらの利点を認識するにつれ、メッシュ式ネブライザーは米国のネブライザー市場において、あらゆる製品タイプの中で最も高いCAGRで成長しています。

COVID-19の影響分析

COVID-19パンデミックは、米国のネブライザー市場に二重の影響をもたらしました。短期的には病院需要の急増、そして長期的には在宅ケアへのシフトです。2020年初頭、COVID-19の症例が全米で急増する中、病院は重症呼吸不全患者の治療に不可欠な卓上ネブライザーの深刻な不足に直面しました。米国病院協会によると、2020年4月には米国の病院の約70%がネブライザー不足を報告し、欧州やアジアからの緊急輸入につながりました。この急激な需要増により、2020年の市場規模は前年比12%増となり、パンデミック前の3.2%の成長率から大きく乖離しました。

しかし、パンデミックはグローバルサプライチェーンの脆弱性も露呈させました。コンプレッサーや電子センサーなど、ネブライザーの多くの部品は東南アジアで製造されており、これらの地域でのロックダウンにより生産が数ヶ月にわたって中断されました。この結果、一時的な価格上昇（一部の卓上ネブライザーは2020年半ばに20%の値上がりを記録）が発生し、医療施設への納品が遅れました。パンデミックが収束するにつれて、市場の焦点は変化しました。息切れなどの持続的な呼吸器症状を伴うことが多い長期COVID-19を発症した患者は、継続的なネブライザー治療を必要とし、医療提供者は病院の過密を避けるため、家庭用デバイスを処方するケースが増えました。2022年までに、在宅ケア部門は米国ネブライザー市場の38%を占め、2019年の31%から増加し、この成長は予測期間を通じて続くと予想されています。

市場セグメンテーションの詳細

米国のネブライザー市場の動向を理解するには、製品タイプ、モダリティ、エンドユーザーといった主要セグメントを調べることが重要です。

製品タイプ別

市場は主に 3 つの製品タイプに分かれており、それぞれに異なるユースケースと成長プロファイルがあります。

ジェットネブライザー：2022年には市場全体の売上高の約55%を占め、市場を席巻するジェットネブライザーは、低価格（基本モデルで通常20ドルから20ドル、50ドルから60ドル）で、広く入手可能です。病院やクリニックでは依然として定番の製品ですが、その大きさと治療時間の長さから、成長は緩やかです。

超音波ネブライザー：2022年には市場の約25%を占めるこのデバイスは、高周波音波を用いて薬剤をより速く送達します。しかし、コストが高く、粘性薬剤との互換性が限られているため、臨床現場での成長は限定的です。

メッシュネブライザー：2022年には最も小さいセグメント（収益の20%）ですが、最も急速に成長しており、2030年までのCAGRは6.2%と予測されています。携帯性、効率性、スマート機能（服薬遵守追跡用のBluetooth接続など）により、在宅ケアの患者の間で人気があります。

モダリティ別

モダリティのセグメンテーションにより、市場は卓上型ネブライザーとポータブル型ネブライザーに分けられます。

卓上型ネブライザー：2022年には市場シェアの62%を占める主要セグメントです。大型で電源コンセントを必要とするこれらの機器は、より強力で、病院で広く使用されています。成長は着実ですが、ポータブル型よりも緩やかです。

携帯型ネブライザー：年平均成長率（CAGR）5.1%で成長しているこれらの充電式デバイスは、移動を重視する患者のニーズに応えます。多くの機種は1回の充電で8～12時間稼働するため、旅行やアクティブなライフスタイルに最適です。

エンドユーザー別

エンドユーザーセグメントは、ケア提供モデルの変化を反映しています。

病院：急性呼吸器疾患の症例数が多いため、2022年には最大のエンドユーザー（収益の45%）となる見込みです。しかし、在宅ケアの導入が進むにつれて、病院の成長は鈍化しています。

在宅ケア：メディケアの適用範囲拡大と遠隔医療の統合が牽引し、最も急成長しているセグメント（CAGR 5.3%）です。2027年までに、在宅ケアは病院を上回り、最大のエンドユーザーになると予測されています。

クリニック: 市場の 22% を占めるクリニックは、急性期治療の提供と長期ケアのための家庭用機器の処方を行う中間的な役割を担っています。

課題と制約

力強い成長軌道を辿っているにもかかわらず、米国のネブライザー市場はいくつかの重要な課題に直面しています。最も大きな課題の一つは、高度なモデルの高価格です。メッシュ式ネブライザーは100ドルから300ドルもかかる場合があり、メディケアはこの費用の一部を負担しますが、無保険または十分な保険に加入していない患者にとっては自己負担額が高額になる可能性があります。カイザーファミリー財団が2023年に実施した調査では、低所得のCOPD患者の18%が費用を理由にネブライザー治療を中断していると回答しており、より手頃な価格の選択肢の必要性が浮き彫りになっています。

サプライチェーンの脆弱性もリスクとなります。ネブライザーの部品の多くは海外で製造されており、地政学的緊張や世界的な健康危機によって生産が中断される可能性があります。例えば、2022年には、スマートネブライザーに使用される半導体チップの不足により、複数のハイエンドモデルの生産が遅れ、一部地域で在庫切れが発生しました。この問題を軽減するため、一部のメーカーは生産拠点を米国に移管していますが、このプロセスには時間とコストがかかります。

さらに、ドライパウダー吸入器（DPI）やソフトミスト吸入器といった代替呼吸器との競争が、ネブライザー市場の成長を抑制しています。これらの機器はよりコンパクトで使用時間が短いため、呼吸を自分でコントロールできる患者に好まれています。しかしながら、幼児や重度の呼吸器障害を持つ成人など、吸入器を使用できない患者にとっては、ネブライザーは依然として不可欠な存在であり、安定した需要基盤を確保しています。

将来展望（2023～2030年）

今後、米国のネブライザー市場は着実な成長が見込まれ、2030年までに5億4,000万米ドルを超えると予測されています。この成長を形作るいくつかのトレンドは次のとおりです。

在宅ケアの優位性：高齢化と遠隔医療の統合により、在宅ケア分野は2027年までに病院を抜いて最大のエンドユーザーになると予想されます。使用データを医師に送信するスマートネブライザーは、この変化において重要な役割を果たすでしょう。

メッシュネブライザーの成長: メーカーが小型化とバッテリー寿命の改善に投資するにつれて、2030 年までにメッシュネブライザーが市場の 30% 以上を占めると予測されています。

規制支援：FDAはスマートネブライザーの承認手続きを簡素化し、革新的なデバイスへのアクセスを加速させました。2023年だけでも、FDAはBluetooth接続機能を備えた3種類の新しいメッシュネブライザーを承認しました。

長期COVIDの影響：長期COVIDに罹患している何百万人ものアメリカ人は継続的な呼吸器ケアを必要としており、短期的にも長期的にもネブライザーの需要が持続することが確実です。

結論

米国のネブライザー市場は、人口動態の変化、技術革新、そしてCOVID-19パンデミックの長期的な影響によって牽引され、医療機器業界の中でもダイナミックなセグメントとなっています。コストやサプライチェーンの脆弱性といった課題は依然として残っていますが、市場の成長軌道は力強く、機器は利便性と効果的な呼吸ケアを求める患者のニーズに応えるべく進化を続けています。医療提供者とメーカーがアクセシビリティと患者中心の設計を優先し続ける中で、ネブライザーは慢性呼吸器疾患の管理と患者アウトカムの改善において、今後も重要なツールであり続けるでしょう。

出典: https://www.fortunebusinessinsights.com/us-nebulizer-market-108428